
PICK UPピックアップ
「薔薇のスピリッツ」という
世界でいちばんの花食体験。
– 後編 –
#Pick up
小澤亮/Ozawa Ryo from「EDIBLE GARDEN」
文:Ryoko Kuraishi
そもそも生産拠点が少なく、農業における主要品目にも含まれないニッチな作物であるエディブルフラワー。
プロユースの専門店として最も苦労したのは、持続的・安定的な生産&販売方法を構築することだった。
加えて、小澤さんたちが無農薬にこだわった(茎や葉のようなバリア層の組織を持たない花は、農薬や化学物質を吸収しやすい)ため、そのハードルはますます高くなった。
「そもそも香り高い食用バラの無農薬栽培は非常に難しいとされています。香りが高いということは虫の害を受けやすいからです。
私たちが取引している生産者さんの中には無農薬の自然栽培や露地栽培のバラ生産に取り組んでおられる方もいますが、冬季には流通がなくなります。
そこで必要になったのが、化学農薬不使用、かつ通年で栽培する技術の確立でした」
植物工場で栽培されている「Nobel Rose」。
小澤さんたちが実現したのは、通年で食用バラを無農薬栽培できる植物工場(工場内部の詳細は残念ながら社外秘)!
「しかも環境をコントロールすることで、従来の食用バラの品種よりも30%以上のコストカットを実現することができたんです」
こうして誕生したのが、世界初の通年出荷食用バラ「Nobel Rose」だ。
生産者と強固なネットワークを作りつつ、農業の科学者の監修のもと、通年で食用バラを栽培できる植物工場を構えたことで、従来のエディブルフラワーが抱えていた「鮮度が低い」「安定供給できない」「害虫を呼ぶ香り高い花を栽培できない」という課題をクリアした小澤さんたち。
彼らが次に取り組んだのは、”新たな花食体験”の創造だった。
薔薇のスピリッツの製造過程。生花の食用バラの花びらを液体窒素で凍らせ、粉砕する。
花の特性を限界まで引き出した、薔薇のスピリッツ。
こうして新たに立ち上げたしたのが、「EDIBLE GARDEN」のサイドプロジェクトである「エディブルフラワー研究所」。
こちらでは、エディブルフラワーのポテンシャルを引き出すため、トップバーテンダーやトップシェフと連携し、食用花のペアリング理論の研究開発に取り組んでいる。
「『エディブルフラワー研究所』は、成分分析から飾り以外の素質を花に見出し、これまでになかった花食体験を創作することを目的にしています。
ここで行った最初のプロジェクトが、ミクソロジストで「memento mori」や「FOLKLORE」などを手がける南雲主于三さんとのコラボレーションによる“花のカクテル”の研究でした。
南雲さんによる花のカクテルは、僕自身の花食体験を根底から覆すような強烈なものだったんです」
バラの花びらをパウダー状に粉砕し(左)、蒸留機にかける(右)。
バラの香りを10のノートに分け、ベストな掛け合わせを模索。
小澤さんをして「花食体験の頂点」と言わしめた、南雲さんによる「薔薇のスピリッツ」。
一口に“バラ”といっても、全品種のバラの香気成分は400種を超えるとか。
これら香気成分はローズ、シトラス、フルーティ、ミルラ、グリーンなど10種のノートに分けられるが、異なるノートの掛け合わせこそがバラの香りの特徴だという。
このスピリッツは、その「バラの香りらしさ」をそのまま表現している。
「スピリッツ製作においては『Nobel Rose』のさまざまな食用バラをご用意しましたが、その中からもっともバラらしい香りを織りなす7種の生花をピックアップしていただきました。
花弁のみを冷凍粉砕して減圧蒸留機にかけ、バラのエキスを抽出。これをウォッカと合わせたものが『薔薇のスピリッツ』です。
グラスから立ち上がるバラのブーケに顔を埋めたかのような香りに圧倒されます。ですが、味わいも秀逸なんです。バラ特有の青々とした甘みがきちんと引き出されています。
香気、そして味わいの掛け合わせは、世界でいちばんのバラ体験と断言できます」
薔薇のスピリッツを使ったカクテルは「memento mori」て提供している。
昨年には、小澤さんが“世界一のレストラン”として長年、目標に掲げてきた「noma」にも「Nobel Rose」を採用してもらい、一つの節目となった。
次の目標はおいしい花食を日本発のフードカルチャーとして定着させること、これを目的としたインバウンドを実現すること。
もちろん、課題もある。
流通に適した品種のさらなる開発と、温度・光環境といった栽培条件や防虫対策、枝や葉の剪定をはじめとした管理作業のアップデートは常に必要だし、香気成分を組み合わせて創造的な食体験を提供できるクリエイター仲間だって増やしていきたい。
「もっともポテンシャルがあるのはカクテルや自家製リキュール、スピリッツだと思っています。
これまでにない花食体験を創造できるバーテンダーのみなさんの、クリエイティビティに期待しています!」
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